ご注意!<R18>
〜このブログは、性的表現を内容に含みます.〜
■■お知らせ■■
ボーナストラック公開始めました(2009.3.19)。
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本日(2009.4.9 22:40)、諸事情の関係ってやつを気にしなくてもよくなったので、パスワード制限を解きました。
これでまた、多くの人に読んでもらえる^^
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このブログ以外に、リアリティーたっぷりな本音をエッセンスにしたブログを、コソーリやっています。リアルそのままだと、いろいろと支障があるので、話によっては状況や会話内容をフィクションにしてありますが、blenの実態を垣間見たい! という殊勝なお方はどうぞ遊びにお出でください。
Yellow Chair
http://fam123.blog94.fc2.com/ 右のカラムにもリンクがあります。
◆[phase:A-2]▼名古屋(神山英二:2009)
名古屋本社の営業のメンバーはボスを筆頭にして8人で販売を展開している。
今年、主任に昇格したのを機会に、客先への担当換えが行われた。これまで担当していたユーザーは後輩に譲って、未着手である大手への食い込みに力を注ぐよう、ボスから指示された。
今までの俺なら、新しい仕事に意欲を燃やして、バリバリ売りまくるぞ。と言うところなのだが、胸中にある心配事で、いまいち乗り気になれないでいた。
昨夜、遅くに4つ年下の妹の緋紗子が電話をよこして来た。
実家の民社で宮司を務める父親の征四郎が寝込んでしまった。という内容だった。
父親が言うには、「疲れがたまってるだけだ、寝てりゃ治まる」 そんな調子らしいが、電話まで貰って知らん振りを決め込むワケにも行くまい。
「二日くらい余分に休みもらって、そっち帰るから」
「そうして。新嘗も七五三も控えてるし。行事続きやん? 人手があると助かるし」
「オヤジしっかり休ませとけよ?」
「はぁ……。パパ、元気だけが取り柄みたいなのもあるからなぁ。明日も朝から動き回ってるんじゃないかな。さっきも栄養ドリンク買(こ)うてきてくれ。とか言うとったし」
「そんなことやと思ぉたわ」
「それで、いつ帰ってこれるん?」
「早かったら明日やけど。明後日ってとこやろな」
「分かった。ういろうは要らんからね」
分かった。ういろうやな。嫌がらせで種類入ってんの買って帰ろう。
白、桜、抹茶、黒砂糖に小豆、コーヒーに柚子……やっぱ重いから5本のにするか。
◆[phase:A-2]▼神戸(神山緋紗子:2009)
神戸。神戸といってもお洒落で何かとイケてる海の方ではなくって。こっちはもっぱら山側。
一般的には六甲山系と丹生山(たんじょうさん)系に分かれるんだけど……どっちでもいいか。いくつもの山が連なっている、その山の中のひとつの麓(ふもと)に、神山の家が代々お鎮りしている神社がある。宝物殿に厳重に祀ってあるアイテムは、伝説の劔(つるぎ)だという話だけど、ヤマタノオロチを征伐したとか、お偉い方が佩刀(はいとう)されていた由緒ある太刀だとか、そういうファンタジックな類ではないらしい。とは言っても、神山に生まれてもうずいぶんになるけど、未だに実物を見たことがないから、実在するのかさえも分からない。のが本当のところ。
兄貴は9月の19日土曜日〜23日水曜日までに亘る5連休に絡めて一週間も帰省してきてくれた。
民社とは今ではあまり言わなくなったけど、(乱暴な言い方をすれば)家族でお社を預かっている零細神社のことを指すらしいんだけど、詳しいことはよく分かんない。
規模もそういったワケで、本当に本当に小さい。あるものと言えば……。鳥居、神門、手水舎(てみずしゃ)、――山がご神体になるので本殿は無い――拝殿と、灯篭が二つ。神職や参拝者が心身を清める参籠所(さんろうしょ)に、形だけの宝物殿(ほうもつでん)。社務所……といっても住居スペースと共用になっていて、うちのキッチンが供物を調理する神餞所(しんせんじょ)にもなっていて。って、どんだけ零細やのん。って状況なんだけど。
「オヤジ、それでカラダの具合どうなんだ。医者には診てもらったんか?」
社務所の奥の居間で、パパと兄貴、それから私の3人で、本当に久しぶりの家族会議をやっていた。繁雑期というのはおかしいけど、人手が本当に足りないときは、面倒見のいい氏子の皆さんがお手伝いに来て下さる(面倒見がかなりよすぎる、ちょっと困った氏子さんもいてはるけど)。
「今年の夏は、暑さが普通やなかったやろ? 暑気に中(あ)てられてな。夏バテのヒドイのやと思うわ。昨日一日丸々寝てたから、もう大丈夫や。それよりな英二、明日の朝、ちょっと付き合ってくれんか? そうやな。いい機会や、緋紗子も付いて来なさい」
明日の朝って、何時なん? なんて兄貴がけだるい口調で訊いていた。パパは毅然とした態度でキッパリ言い放った。
「4時出発や。山登りするから。緋紗子、握り玉頼む」
兄妹そろってブーイングを発したのは言うまでもないんだけど、パパの決意は固くて、撤回する見込みはありそうになかった。
その日の夜。
明日、出発が早いというのに、パパと兄貴は、近所に住む氏子の岩橋のおっちゃんと遅くまで打ち合わせと称して、酒盛りをしていた。
「明日、朝早いんとちゃうん? 起きれんかっても知らんからね」
午前0時を回ったところで、声はかけておいたけど……明日の朝、起きれないならキャンセルになるしいいか。なんて思ってた。
神餞所(キッチン)にある1升炊きのガス炊飯器の横にある小さな電気炊飯器からご飯を取って、おにぎりを作っていく。うちの家族はどういう訳だか、何の工夫もない塩おにぎりが全員のお好みなので、用意する側としてはとっても助かる。
熱々の炊きたてのご飯を苦戦して握っていると、兄貴が木の引き戸をガタガタさせて、開け、そして閉めて、しっかり時間をかけてやってきた。
「ほんま建て付け悪いなこいつ。それか、この家、また傾きヒドなってんちゃうか」
なんて言いながら。
「コツいんねん、それ。んでどしたん? お酒のアテ(肴)やったら、あとスルメぐらいしかないけど」
「あぁ、アテはエエ。もう『お開きやー』 言(ゆ)うて、二人でういろ齧っとうわ」
「ホンマあほやで、7本入りなんか聞いたことないって」
「ま、ええがな。あのな、そんなことより明日の山登りなんやけど、多分、岩戸のご神体の掃除やと思うねん」
おにぎり作りを再開しながら話を聞く。
「ウチまだご神体って見たことないねん。伝説のアイテムやんな。勇者の剣やったっけぇ?」
「あはは、アホか。そんなええもんうちにあったら、もっとこの神社も流行っとうやろ。宝物殿から宝物は出ん。って言うてな。あるやらないやら怪しいもんや。それに明日行くのは山のほうや。岩戸にもドラゴンキラーやら、稲妻の剣なんてあらへんで。岩があるくらいで、エクスカリバーかて刺さってへん」
「岩て……まぁ、そうやなぁ。そやけど、祀ってあるのは劔で間違いないんやろぉ? もっと公開したら武術の達人とかには外せんスポットになると思うんやけどな〜。そしたらK−1の選手とか参拝に来てくれへんやろか」
「へー、お前、マッチョが好みなんか?」
「そうでもないけど、ポッチャよりええやん」
eof:2475
◆[phase:A-2]▼J.F.K国際空港(木下善治:2008)
成田からの直行便のNHで14時間の時差を飛び越える。ボーイング777での13時間足らずの空の旅がようやく終わろうとしている。着陸態勢に入ってからの数分。この間は、何度経験しても、ホント好きになれない。無事に空港に着陸して、ほっと安堵する。
飛行機を降りて、長い通路を人の群れについて歩く。出国のフロアにたどり着いて、NHの表示を見つけて、ターンテーブルの前で荷物が出てくるのを待つ。荷降ろしに手間取っているのか、しっかり待たされたあと、俺の荷物が流れてくる。荷物を手に取って税関検査の緑ランプの長蛇の列に並ぶ。ようやく俺の番が来て、トランクケースをテーブルの上に乗っけて開いて見せる。にこやかな表情のアメリカ人職員が聞いてくる。
「ホリデーかい? ミスター」
「あぁ、そんなトコ」
「そうか。いい休暇をな、ご苦労さん。OKだ」
「そりゃよかった」
バッグの金具を閉じて、トランクケースを引っぱって行く。ゲートをくぐる。
出ると、もんのすっごい人でごった返していた。俺を見るなり、
「やぁ、タクシー乗らないかい、ブラザー?」 なんて客引きが次々とやってくる。
「いいよ」「いらないよ」「結構」「もうええてー」 ホントしつこい。
どれもこれも無視して、空港の外に出る。
いい天気だった。太陽がやけに眩しい。上着のポケットを探ってタバコを取り出して、ライターを。あれっ……って、そうだ。危険物持込みの規制とかで、ライターを成田で捨てたんだった。近くでタバコを吸っていた角刈りの中国人風の男に声をかけて、火を貸してもらう。
「サンキュ」 と礼をすると、「ブカーチ(不客気)」 なんて言ってたから、やっぱりチャイニーズか。
「ふはぁ。やっと吸えたわ」
周りを見ると、俺と同じようにタバコを燻らせてるおっさんばかり屯(たむろ)している。あははは。禁煙大国アメリカだからな。
立て続けに、もう一本タバコを咥える。さっきの中国人が、ほら。とライターを差し出してくれる。気が利くな。
「シェイシェイ」 って言うと、今度は「ユアウェルカム」だと。外国に来たって実感が湧いてくる。
周りを見渡すと、俺がいたのはバスターミナルのほん手前だった。看板には、市内行きのバスターミナルと表示がある。行き先は、グランドセントラルとポートオーソリティーか。全然場所が分からんがぁ。あはは。
――先週、俺は会社に2週間の休暇届けを提出して受理された。休暇の理由もこれといって聞かれなかったが、仕事だけはしっかり片して休めよ。って言われたぐらいだった。まぁ、元々、休みにくい会社でも職場でもないし、これまで、こんな休みを取ったこともなかったこともあって、まぁ、すんなり。といった感じだった。早速、営業部に行って、神山に話をする。
「来週ニューヨーク行ってくる」
「おお。ようやくその気になったか」と肩を叩いてくれる。で、「居場所はつかめたのか?」と聞いてくる。
「あぁ大体の場所はな。金森の家に電話して聞いたから、大丈夫だ」
「そうか。木下、あっちは行ったことあるのか?」
「いや。ないな」
「英語喋れるんか?」
「ん〜。日常会話くらいなら。それで何とかなるだろ」
「そうか。まぁ、しっかりつれて帰って来い」
「あぁ。そのつもりだ」
「おおそうだ。めちゃめちゃご利益のあるお守りがあるんだ。特別に譲ったる」
そう言うと、無造作に机の中から小さな袋を取り出して渡してくる。とっても、甚だアヤしいんだが。
「ほぉ。かみって、そういうの信じるタイプだったのか?」
「まぁな。ちなみに、それと同じのな、むかーし、金森さんが舞台デビューするときに渡したことがあるんだ」
「ほぉー。初耳だな」
「あぁ。初めて言ったからな」
「で、なんのご利益があんだ? これ」
「戦勝祈願」
「……なぁ、かみ。中見てもいいか?」
「あっほぅ。お守りの中見ると目、潰れるぞ。見たらあかん」
「へぇ。かみは見たことないのか?」
「……あぁ。な、ないな。あっ、見たらあかんぞ。ご利益、消えたらどうすんねん。要らんねやったら返してくれ」
「……わーかったって。見んって。その代わりこれだけ教えてくれ」
「あぁ、何だ?」
「中身、トラじゃないだろうな?」
「……竜じゃないのは確かだ」
「そ、そうか……。これ、税関検査でひっかからんだろうな? ワシントン条約とかで」
「……中身、何だと思ってんだ? トラじゃないって。もし聞かれたら、アミュレットって言え。袋に書いといたろうか?」
「……い、いや。ええわ。よけい怪しいがぁ」
「あほっ、いいから貸せって」
あぁーあぁ。きったない字で、amuletってサインペンで書かれてしまった――
タバコを吸い終わって、携帯灰皿に吸殻を仕舞い込む。とにかくイエローキャブをつかまえて、聞いた住所に行ってみるか。そう決めて歩き出すと、背後から声がかかる……。
「木下ごっめーん。やっぱココか。待った?」
はぁっ? 聞き覚えのある声……なのはいいんだが。振り向くと、”そいつ”が、にこやかに笑って立っていた。
「金森っ?」
「どした? 変な顔して。もういきなり時差ボケ?」
「ええええええっ?」
上から下まで、確認するように見る。三年振りだから、少し記憶とは異なる部分はあるけど(シワとか、化粧の濃さとか……あっ、撤回撤回)、たっ、確かに金森だ。薄ベージュのキラキラ素材のカットソー。胸元にはラスタカラーのヘンプアクセ。白のメッシュベルトに、ネップ生地のデニムスカート。それから、キャメルカラーのくったりバッグに、バッグと同じ色のサンダル。
「……さっきから何、そんな驚いとんの?」
「何って、おかしいがね。これが三年振りの挨拶か? っていうか、何で、俺がココにおんの知っとんの? 俺、詳しいこと誰にも言ってないはずなんだけどな。あっ、そうか。実家から連絡あったんだな」
驚きまくって、あれやこれやと捲くし立ててしまう。怒りは、そりゃぁ、ある。あるけど嬉しさの方が勝っていて。って違うちがう。いかん、混乱してる。
「はぁっ? 三年振りってなにー? 大げさな〜。 で、ココにおるの知ってるの何でかって? そりゃ知っとるがねっ。木下が日本から電話かけてきたんだし」
「お、俺が?」
「そう、俺が。他に誰がいんのよ? マジでおかしいよ?」
「……えっと。お前、金森だよな」
「はぁっ? どういう意味?」
「だよなぁ……。い、いや。やっぱり何か変だっ。ちょっと聞かせてくれ。俺はココに何しに来るって言ってたんだ?」
「え? 何しにって。結婚式じゃないの」
「……はぁ? 誰のっ?」
「誰って……。ちょっとぉ。マジで???」
「マジで誰?」
「神山さんに決まってるじゃん」
あまりの返事に絶句ししてると……。
「神山さんと稲葉ちゃん……でしょうに」
「えええええええええええええええっ!!! 稲葉さんと???」
「木下、とぼけるのも大概にせんと怒るよ?」
「いや、マジで驚いた。って、いうか。そりゃないだろ。それより、なんで、お前が稲葉さん知ってんだよ」
「何でって、……qt Belleのメンバーじゃん」
「いかんわ俺、絶対に悪夢見とるわ……ついでだから聞かせやぁ。何で、アメリカで結婚式するわけ?」
「何でって……、海外赴任してるからに決まってるじゃん……。ねぇ、木下、あんたホントおかしいよ? どっかで頭打ったりせんかった?」
何が一体どうなってるんだ? 探す手間省けたのは嬉しいけど、もしかして、とんでもない策略に嵌めらたのか? 俺……。何も知らなかったってことなのか? い、いやっ。そんなはずない。だって、こないだ、非現実的なことしたばかりなんだし……。
「ちょっと、木下っ」
「ん? 今度は何?」
「いま気づいたんだけど。そのカーキのジャケット……私、形が古いからって言って捨てたよね、こないだの衣替えのときに。ゴミ箱から出して来たわけ? 信じられんわ、もうー」
信じられんのは、こっちだっちゅうねん。……へっ?
「ちょ、ちょっと。その左手の指輪なに?」
「……ホント大丈夫? 何って、あーーーっ、なんで木下、指輪しとらんのよ!」
はぁ? 俺が?
「だ、大丈夫じゃないかも。って、俺がそれ渡したの?」
長い長い沈黙。大声でやり合ってたから、人だかりが出来てしまっている。
金森もそれに気付いて、トーンを抑えて提案してくる。
「……おかしいね。これ、どう考えても」
「あぁ、もしかしたら、俺……なんかとんでもなく間違った飛行機乗っちゃったのかもしれん。ちょっと、悪いけど。どっかでゆっくり話、したほうがええと思わん?」
「う、うん……だけど。うん。どうせなら移動しながら話したほうがよくない?」
「あ、あぁ」
移動してもいいんだろうか……このままじっとしている方がいいような気もしたが、それで何かが改善されるかどうかなんて、それだって分かんないけども。
イエローキャブに乗りこむ。金森が行き先を告げる。
「とりあえず、アパートでいいよね」
マンハッタンを目指すことになった。
「あぁ」
キャブの中の時計を見ると、ちょうど正午だった。成田を朝11時に出発して、まだ正午か。ホント一日長いな。金森はずっと隣で怪訝な顔をしている。窓の外を見て悩み始める。
「ね、ねぇ。木下」
「うん?」
「……ちょっと信じられんのだけど。もしかしたら、私が迷い込んでるのかも知んない。……今日って、何年の何月何日?」
「……5月2日。……2008年の」
「これ……絶対夢だ……」
足元においていたカバンの中から、成田で買って捨てる機会がなかったスポーツ新聞を取り出して、金森に渡す。
「これ。今日、成田で買った新聞」
「2008年……うそっ、でも、ええっ」
完全に絶句してしまう金森。いや、まさか、本当にこんなことってあるのかっ? って、それしかないよな。という事は、どこかの時点で。俺と金森が?
「何年……から来たんだ?」
「2012年……」
「4年後か。って、じゃ、金森、お前いま30か?」
思いっきりパンチされる。
「いてぇな」
キャブの運転手が目を白黒させて言う。
「おいおい、お客さん。バイオレンスはお断りだぜ?」
「い、いや。ノープロブレム。こいつの愛情表現なんだ」
「わーっはっはっは! 刺激的だな」
「あぁぁ、運転手とアホな話してないでっ。でも、うわぁ。ちょっとぉ……。って、そうだ! 嘘かホントかは、もうどっちだっていい。今が2008年なら、大事なことがあるのよ。5月2日よね? そう言ったよね?」
「あぁ」
「えっと、えーっと、北京オリンピックのあった年で間違いないね?」
「あ、あぁ。まだ始まってないけどな」
「じゃぁ、まだ間に合う! よし、よーーし!!」
「何、興奮してんだ?」
「あーっ。どうしよう。何から手をつけたらいいんだろう。あの時、どうしてたっけ……全然思い出さんわ」
「金森、ちょっと落ち着け。ゆっくり話し聞くから」
eof:4432
■ボーナストラック
◆[phase:A-1]▼尾張旭(金森恵美:2005)
就職も決めずに、バイト、qtBelle、芝居の稽古と実に多忙な日々を送っていた。
研究生としての毎日はとても充実していた。演じる役者の経験や捉えかたによって、一冊の脚本がどんな風にも変化していくのもそうだし、三日間の公演ともなれば、昨日よりも今日,今日よりも明日と、確実に芝居が熟成されていくのがよく分かる。芝居は生き物だ。なんて言うけど、ホントにそうだと思う。ベテランの役者になればなるほど、ストーリーを役者がそれぞれ味付けしていって、アレンジを加える。幕が上がってしまえば、芝居はすべて役者の物だから、間の取り方、抑揚、動作、振る舞い、セリフだって時には変更を入れてくる。
こういった具合に、役に入っていく、洗練されていくのを裏側で見ることは大変意義が深い。リハでセリフがシドロモドロであっても本番でバッチリ決めてくるのは、やっぱりプロのなせる業なんだろうな。そういうものを目の当たりにすると、血は沸騰してくる。
……入りきれていない自分と日常の生活とのギャップ。
昨日をなだめすかして、今日を誤魔化して……。こうやって毎日過ごすのはつらかった。
ある日曜日の昼下がり。やりきれない思いを抱いたまま、家でぼんやりテレビを見ていた。
中部テレビだったかで、ディズミーオンアイスの特集をやっていて、舞台のメイキングが流れていた。
レポーターが舞台の裏側を訪問して、キャストにインタビューをしていた。その中に日本の女子ダンススケーターがいて、外人ダンススケーターに混じって、実に伸び伸びと氷上を音楽に載せて気持ちよさそうに滑走している映像が映し出されていた。
名古屋の真夏の街は愛知万博で湧いていて、キリゾーとモッコロとかいう、怪しい目つきのみどりい着ぐるみをテレビで見ない日はなかった。見ない日がないといえば、栄や錦にも万博の観光客と思しき外人たちもそうだった。
前々から行って観たいと思っていたブロードウェイのミュージカル。これに様々な想いが、重なり合っていった。
「アメリカ……行きたいなぁ」
意識の外にあった感情が一気に胸の中で大きく膨らんだ。
私は衝動的に旅行代理店のサイトにアクセスをして概要を確認した。栄まで出て行って、旅行代理店をはしごしてパンフレットを集め、近くの喫茶店で旅行費用の試算をはじめた。
Bellの報酬が思った以上に大きな金額になっていたこともあって、スポットで入るブティックのモデル代、これまでにバイトで貯めた貯金が丸々、手付かずで残っていた。うん。どうせ行くなら、西の方から順番に回ろう。ハリウッド、ラスベガス……最終的にニューヨークにたどり着けばいい。そんなことも心のどこかで思っていた。
だけどそうなると長期滞在になる。お上りじゃなくって、どうせならしっかりと学んで帰りたい。……ビザ……いるのかしら。
渡米する時期もそうだし。それから木下に……なんて話そう。
クリアしないといけないことがたくさんあるな。
結局、私は、ほとんど木下に相談せずに、渡米の準備を進めた。
木下も私も、何かと忙しかったし、相談してもきっと分かってくれなさそうな気もしていたし。
説明だけは……うん。きちんとしておこう。
「もしもし? あぁ、木下? 私さぁ……」
「はいはい。おっ、金森? 元気でやってるのか?」
あはは。相変わらず能天気だなぁ。ていうか、ほったらかし過ぎだって。
「うん。元気でやっとるよ。ところでさー、木下。今、あんたどこで何しとる?」
ずいぶんと電話の向こうが賑やかだった。
「んんっ? どうかしたのかぁ?」
「ちょっと話があって。今どこにおんの?」
「えーっと、今? ……これ、いまどこだ? 会場にいるんだけど。コモン5。エジプト」
エジプト? あっ! そうだった。
『万博の特集やるでな、一緒に行かないか』 って誘われてたっけ。先週……。
「あぁ、万博会場ってことか〜」
「そそそ。壁画の前におる。話ってなんだぁ? あとで金森ん家行こうか? それとも家に来る? そうだが。おかんが最近、恵美ちゃん遊びに来ないねぇ。って、拗ねとんだよ」
「へぇ。杏子さんがぁ? じゃぁ、木下ん家行った方がいいね」
「そうしてやって。確か今日は早めに帰ってくるはずだでな。夕方に来(こ)やぁ」
「でも木下。万博……そんな早くに切り上げれるわけ?」
「別に俺がおらんだかって、でーじょーぶ(大丈夫)でっしょお。優秀なスタッフが多いで」
「分かった。じゃぁ夕方行く」
少し久しぶりに訪れる木下の家。
表玄関のベルを鳴らすと、連絡を受けていたのか杏子さんが出迎えてくれた。
そういえば杏子さんのブティックにもずいぶんと顔を出してなかったな。
「恵美ちゃん久しぶり。ごめんなさいね、善治まだ帰ってきてないのよ。時間だいじょうぶ?」
「あ、はい。今日は久しぶりにフリーなんです」
「あら、それはよかったわぁ。じゃぁ善治が戻るまでお茶しましょう。先にリビングに行っててちょうだい。見せたいものがあるから、ちょっと部屋まで取ってくるからっ」
買い付けの旅行以後、木下に会いに来る以外にも、杏子さんが経営するブティックで使う服飾の撮影モデルとして、――その後もブティックに短期のバイトに入ったこともあって、バイト先からこの家までBMWで送り迎えをしてもらったこともあった――何度も来ている木下の家。当然知っている家の間取り。
玄関を上がってすこし行った右側がリビング。
しばらくすると杏子さんは大きな荷物を抱えて戻ってきた。
「はい。これ」
差し出されたのは、以前、私がお店のポスターモデルをやった時のオリジナル写真だった。
木目のフレームに入っていた。
「なかなか渡せなくって今まで伸ばし伸ばしになっちゃって、季節ずいぶん外しちゃってるけどね。この写真のポスター。お客さんにずいぶん好評だったのよ」
「へぇ〜。照れるなぁ。あ、でもでもカメラマンの腕じゃないです? まったく別人みたいですし」
「照れなくってもいいわよ、恵美ちゃん、コーヒーでいいでしょ?」
「はい」
コーヒーメーカーにミネラルウォーターと豆をセットしながら話が続く。
「ところで最近、善治とはどうなの?」
「え?」
話が不意にまったく違うところに飛んでくるなぁ。
「上手くやってる? 善治って、気の回らないところがあるから心配なのよ」
「あはははっ。そうですね〜。それは言えてます」
「そうでっしょぉ? あっ、母親の私がこんなこと言うのはおかしいけど、嫌になったら嫌になったで、私やお店とかに、気遣わなくっていいからね」
「あははっ、それは心配しなくっていいですよ、杏子さん」
「あら、そうなの?」
「そういうものだって半分諦めてますから」
「あら。そうなの? うふふ」
「あーどうしようかな、木下に話する前に、杏子さんに聞いておいてもらおうかなぁ」
「ん? なぁに?」
私は席を立って、杏子さんのすぐ近くまで言って話をする。
「アメリカに役者の勉強に行こうと思ってるんですけど」
「あらぁ、そうなの? いつからいつまで?」
コーヒーが出来上がって、カップにコーヒーが注がれていく。
「時期はまだ決めてませんけど、期間はもしかしたら1年とか……」
「1年?」
テーブルにコーヒを一緒に運んで椅子に腰を掛ける。
「ビザを取得してアルバイトをしながらって思ってるんです」
「そうかぁ〜。それは寂しくなるわね」
「まずは一度行ってみて、それから改めてどうするかを決めるつもりなんですけど」
「その方がいいかも知れないわねぇ。行くとしたらどこを思ってるわけ?」
「最終的にはニューヨークです。今回はハリウッド、ラスベガス、フロリダを先に見て回るつもりなんです」
「へぇ〜いいわねー。私もついて行きたいわぁ」
「ホントですかぁ?」
「うん、仕事がなければってことだけどね。でも、うーーん。時間的に無理かなぁ」
eof:3233
ひとまず「Bell pepper」 は完結いたしました。
1話目が、5月2日だったんですね。41話が8月の終わりでしたか。
まるっと4ヶ月か。一ヶ月10話ペースだったのか……。振り返ってみたら短い期間でしたが、とても充実した4ヶ月間でした。
これまでに、ご訪問してくださいました皆様。
本当にありがとうございました。本日を以って、一旦、更新休止とさせていただきます。
blen(2008.8.31)
それでは。 blen
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